今年の学会のタイトルは「呼吸と意識とヨーガ療法」。
今年もさまざまな先生方のお話を伺うことができました。
板書王の私も追いつけないすごいスピードでスライドが展開されていきましたが、がんばってメモを取りました。
抜けもありますが、備忘録として残しておきたいと思います。
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講演タイトル:「マインドフルネスがマインドワンダリング指導に及ぼす影響:臨床的効果が現れるメカニズムへの示唆」
NHKの番組にもよくお出になる熊野先生。早稲田大学の先生でもあり、早稲田大学の応用脳科学研究所の所長もされています。認知行動療法の第一人者で、ご自分でも「マインドフルネスの広告塔みたいな扱いをされていますが(笑)」とおっしゃるくらい、マインドフルネス関連では有名な先生です。全く偉そうな感じではなく、とても優しそう。先生の研究結果を見ながらお話を伺いましたが、ところどころ難しく(^_^;) この記事では後から調べたことを補足しながらまとめましたが、ちょっとわかりづらいです(^_^;)
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何人かの先生の講演がずっと続いていたことに配慮して下さったのか、熊野先生の講演は『伸び』をするところから始まりました。
「アップルウォッチにも『スタンド(立ち上がる)の時間です。立ち上がって1分ほど動きましょう』と表示される機能があります。(定期的に立ち上がって体を動かすことは健康を増進し、深呼吸はストレス軽減などに効果があるとされています。) 立って2~3分伸びをしたら、スポーツジムに行く必要はなく、休憩にもなります。」と仰っていました。
伸びが終わった後、講演のスタートです。
マインドフルネスとマインドワンダリングとデフォルト・モード・ネットワーク
マインドフルネスとは、目を覚まし、瞬間瞬間の自分に戻ることです。
『目を覚ましている』の反対は『心ここにあらず』です。
心ここにあらずの時は、思考に飲み込まれていて、それをマインドワンダリングと呼びます。
デフォルト・モード・ネットワーク(以下DMNと書きます)とは、脳が意識的な活動をしていないときに働く基礎活動です。
このDMNの時にマインドワンダリングの状態になっていると、脳が無駄な活動を行っていることになります。
過去のことを思い出したり、未来の心配をしたり、妄想をしている時が脳の無駄な活動です。私は『物語の中に入る』と表現しますが。
マインドフルネスは脳をどう変えるか
3つの神経ネットワーク
・実行…頭を使っている時
・覚醒…五感を使って感じている時。瞬間瞬間の自己
・DMN…自己イメージ、エゴ。物語としての自己
マインドフルネスは、①サマタ瞑想(集中瞑想)と②ヴィパッサナー瞑想(観察瞑想)から成り立っています。ヨガにはこの2つとも含まれています。
先ほどの3つの神経ネットワークの中の『覚醒』(五感を使って感じる、今を意識)の働きでマインドフルネスが出現します。
マインドフルネスの経験を積んでいくと、『物語の自己』と『瞬間瞬間の自己』が関連しなくなってきます。
2つの自己が分離して働くようになるということです。
先ほどの久賀谷先生の講演にも出てきました『[私の思考]と[私]を切り離す』がまさにそれです。(久賀谷先生がお話された、陸上競技 ハードルのロロ選手のお話を引用)
マインドフルネルの実践と感情のコントロールについて
①群:マインドフルネスを1000時間実践した人、②群:何もしていない健常者 での脳の状態の比較です。
感情をコントロールしているとき、
①群は、扁桃体(恐怖感、不安、悲しみがあるときに活発に動く)の変化がなく、前頭葉(感情をコントロールするときに働く)も変化がありませんでした。
②群は、扁桃体を抑えこむために前頭葉が働いていました。これは『我慢をしている』状態です。
①群はアクセプタンス(受容)が起こり、DMNの働きが抑えられたことを示しています。これは脳の省エネにつながり、さらに、平常心でいられるということなのです。
マインドワンダリング状態を測ることに成功
(先生が共同研究者として名を連ねた研究を題材にして説明←サイエンスという科学雑誌に発表された論文)
マインドワンダリングは、今取り組んでいることから注意が逸れている状態。1日のうち半分がマインドワンダリングだという人もいる。
瞑想経験者→マインドワンダリングが少ない。瞑想をした後は、マインドワンダリング傾向(抑うつ、強迫観念、睡眠の質が悪い、統合失調症など)が下がる。
※実験データを積み重ねて、脳波からマインドワンダリング状態であるかわかる式を作ることができた。
マインドフルネスの実践でマインドワンダリングは変わるのか
マインドフルネスをすることで、マインドワンダリングの状態からすぐに注意を戻せるようになった。
初心者は戻るのに時間がかかる
マインドフルネス8週間プログラムを経験させたあとに、MWQという質問紙で調査
・抑うつ傾向が下がった
・マインドワンダリングからの復帰時間が早くなった(心の柔軟性)
・マインドワンダリングの持続時間が短くなった
(もう1つの共同研究のスライド)
・マインドワンダリングに距離を置いて気付いていることが大事。
・マインドフルネスの実践は、マインドワンダリングを減らす目的ではない。
・巻き込まれずに気付くこと自体がマインドフルネスの訓練の核である。
①群:サマタ瞑想(集中瞑想)②群:ヴィパッサナー瞑想(観察瞑想)、2つの群に分けて調査してみた結果、
・マインドワンダリングの程度
どちらも有用な交互作用なし。どちらもマインドワンダリングは減らなかった。
・マインドワンダリングのメタ認知的気付き
①群ではメタ認知的気付きがアップした
メタ認知的気付きの欠如(現実と物語の私との区別がついていない人)は、うつや不安になりやすい。
8週間のマインドフルネスの実践で、マインドワンダリングが下がった。
まとめ
・マインドワンダリングはDMNと関係していて、マインドフルネスの実践がマインドワンダリングを抑える。
・①のサマタ瞑想(集中瞑想)の方がよい結果が得られた。
・マインドワンダリングをなくすのではなくて、そこからの復帰時間(今ここに戻るまでの時間)を短くすることが大事。
・マインドワンダリングへのメタ認知的気付きが見いだされることで、マインドワンダリング傾向(抑うつ、強迫観念、睡眠の質が悪い、統合失調症など)が改善する。
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熊野先生は「私の今の興味は…」と次のようにお話されました。
・マインドワンダリングって、私たちにとってプラスなのかマイナスなのか。
・集中瞑想はわざと雑念を生み出し、それを観察し、取り込むのではないか。
・メタ的気付きはどうやって養われるのか。動物はマインドフル。でも、ゴリラは自分が気付いているということに気付いていない。人はそれができる。デジタル社会では魔に飲み込まれてしまってストレスフル。言葉がそれを救うのではないか。
締めの言葉で、熊野先生ははっきりと
「メタ認知的気付きは、ヨガで獲得することができます」
と仰ってくださいました(^_^)