がん医療の現場でヨガが取り入れられていているのはご存知でしょうか。
以前、ヨガのクラスで
「がん患者さんにもヨガがとてもいいんですよ(^_^)」とお話をしたら、
「え、ヨガをがんの患者さんにさせるの?難しくない?」とおっしゃる方がいらっしゃいました。
この記事にも書きましたが、実際に医療の現場にヨガが入っています。
一般的なヨガとはちょっと違うアプローチのヨガです。
お医者さんをリーダーとした患者さんのためのチームに入れていただき、西洋医学側からの指示やアドバイスをいただきながら、ヨガを用いて、患者さんのための最善を尽くしています。
関西の病院でもがんの患者さんや、患者さんを支えるご家族向けにヨガが行われています。
がん医療の現場でどのような形でヨガが取り入れられ、どのような効果を上げているのかを聴ける研究総会が大阪でありましたので、お勉強してきました。
(以下、必死にメモを取ったもので、抜けがあるかもしれません(^_^;))
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ホスピスでのヨガ(ガラシア病院 ホスピス長:森先生)
ヨガは身体だけのものではなく、瞑想というツールもあります。当ホスピスでヨガをするようになって5年が経ちました。
患者さんやその家族の精神的安定をもたらし、患者さんが亡くなった後のご家族のグリーフ(悲嘆)ケアにもヨガが役に立っています。ヨガを行うことでレジリエンス(心の回復力)が高まるからです。
また、患者さん本人に対しては、瞑想によって死生観を醸成させることができます。魂の痛み(スピリチュアル・ペイン=自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛)を癒すこともできます。
ヨガで筋肉の緊張と弛緩を繰り返すことでリフレッシュしたり、リラックスしたり、またヨガの終わった後で、患者さん同士でおしゃべりをすることも、これらに役に立っています。
ホスピスでは患者さんのために他にも、ディグニティ・セラピーなどをしています。
(この病院では)医療者がヨガを教えることは今のところできません。医療者は医療者の立場で、ヨガ関係者はヨガの立場で、持てる技術を出し合うというこの形が、世の中に広まっていくことを期待しています。
緩和ケアでのコ・メディカルの役割(近大医学部:小山先生)
保険会社のCMでもおなじみですが、2人に1人ががんに罹る時代です。以前は不治の病とされていましたが、今は決してそうではなく、また、罹患してもどう過ごしていくかということに重点が置かれるようになりました。
緩和ケアは、様々な病気によって生じる痛みや症状を、様々な立場の人がチームを組み、解決に向けて努力する集団です。それぞれに正解があるので、立場の違いから稀に対立することもありますが、目的、理念を共有し、患者さんの利益のために協力していかなければいけないと思います。
がん医療とヨガ(ヨーガ療法学会:木村先生)
ヨガが様々な疾病に役に立っているのは明らかなことです。世界心身医学会でもヨガによって症状が改善したという発表が多くなされています。
ヨーガ療法学会では、タイで、薬物依存患者のためのヨガを教えたり、キューバの医師たちにヨガを教えたりしています。
日本国内でも国からの依頼で、ヨガによる有害事象の研究を、岡先生(当時 九州大学医学部)と協力して報告書を出しました。それによると、ヨガの教室に来ている一般の人の53.5%に何らかの慢性疾患があり、42.3%の人が受診中であるという結果が出ました。その人たちを対象に3年の追跡調査を行い、もともと持っていた様々な疾患が軽減、または治癒したという結果が出ています。
広島での学会で、これについて岡先生が詳しくお話をして下さいましたが、疾病を持っている人がヨガを継続した結果、症状がよくなった、ヨガをしてよかったと答えた人が90%いました。私もここまでよい結果が得られるとは思っていませんでした。90%の人に効く薬はこの世の中にはありません。ヨガのよいところは、一度覚えてもらったら、自分で薬を作れるようにヨガすることができます。
慢性疲労症候群にもヨガはいい結果を残しました。
PudMedで検索すると、2012年には118件だった世界中でのがんに対するヨガの症例報告が、494件と4倍に増えています。これには明確な理由があって、薬だけ増やしても治らず、心の根本を治さないとがんは治らないということを医者や学者たちが気付き始めたからです。
ただし、病気に対するヨガが、どんなものでもいいというわけではありません。巷には様々なスタイルのヨガがあります。
「ヨガで治るんですね!」と適当なヨガ教室に飛び込んで有害事象が起こることも報告されています。
それを抑止するために、いま、WHOが『疾病の改善によいヨガ』の指導基準を作っています。世界中から15人のヨガ療法の指導者が集められ、私もそれに呼ばれました。3日間、話し合いをしました。
一例ですが、インストラクターがポーズを修正するということがよく行われていますが、これは禁止としました。気持ちを内に向けていくことで疾病によい影響があるのに、インストラクターに修正されることで気持ちが外に向かってしまうからです。またタッチすることはセクハラにもつながりかねませんから、禁止となりました。
今、それは200人の関係者によってチェックが入っていますが、指導基準が固まったら世界中のヨガの団体にそれを配布することとなると思います。
ストレスにヨガがよいという報告も今年の5月、アムステルダムでありました。ハンスセリエのストレス反応理論に、天敵と出会ったとき、1.闘う 2.逃げる 2.死に体(死んだふりをする、身をひそめる)という反応がある、というものがあります。
この3番目の死に体というのが、実験で使ったネズミと、実際のヒトとでは違うのです。
死に体はPTSDの後に起こる反応です。
ネズミは死んだ振りをした後、目が覚めたら逃げ出すことができるのですが、大脳皮質が発達してしまったヒトでは逃げずにその場から離れられなくなって(フリーズして)しまうのです。
そうするとずっとPTSDに苦しめられる状況が続くのです。ステファン・ポージェス博士が提唱した多重迷走理論というものがあります。これによると、フリーズ状態からの脱却にヨガとマインドフルネス瞑想がよいとされています。
熊本で大きな地震がありました。
たまたまその時期、私共の団体は、熊本の病院の先生と協力してヨガの研究をしている最中でした。調査もこれで中断かなと思いましたが、再開することができました。
ヨガをしている群では地震に遭っても、レジリエンス(心の回復力)とPTG(トラウマ後成長)が上がっていたという結果が出ました。
がんの薬に『オプジーボ』というものがあります。世界初の免疫治療薬として承認された薬です。しかし10人に1~2人にしか効果が見られない。理由は免疫力が弱っている患者に投与しているからだと推測されています。
免疫力を高めるにはヨガがいいということはわかっています。現在、オプジーボの効果を高めるために、ヨガが役に立つのかの調査研究が行われています。
ホスピスでのヨガ実施報告(ヨーガ療法士:川上先生)
ホスピスのヨガでは、身体を動かすだけでなく、ヨガの哲学をもとに、肯定的に人生を振り返るということもします。振り返った結果を患者さんから聴かせていただきます。
家族に話せないような死についての深い話を、どうしてヨガの先生に話してくれるのか。
それは肉体を意識しながらするヨガが、身体と心のリラックスをもたらすからだと思います。
『瞑想のお題』という形で提示するので、話しやすくなるのもあると思います。これはホスピス長の森先生も「ヨガだからできること」とおっしゃっています。
医療従事者でないヨガの私たちが、ホスピスの現場にいさせていただくには、ヨガの知識や技術だけではだめです。
1.死は悲惨なものではないということ
2.死は誰にでも訪れる自然なこと
3.私たちの本質は永遠であること
これらは私たちを見る患者さんの目に映るところに現れると思うので、ヨガで関わらせていただく一人一人が死生観(死をどう捉え、どう死んでいきたいか)をきちんと持つことが大事だと思います。
阪大オンコロジーセンターでの実践報告(ヨーガ療法士:坂本先生)
がんに罹患した患者さんは、再発への不安や、不眠を訴えます。ヨガはそれらの改善に役に立ちます。①緊張と弛緩、呼吸法→身体と脳をリラックスさせる ②『今ここ』に集中する→がんがあることで自分の身体を怖いと思っている患者さんは多い。今の身体に意識を向けることで、自分の身体と穏やかにつながることができる
オンコロジーセンターでは1回のクラスは60~90分です。
順序としては次のとおりです。
①アンケートで現状の把握
②呼吸を観察
③目を閉じて痛みの観察
④ヨーガ療法での動きや呼吸法
⑤瞑想
⑥今日の振り返りと家でも実施してもらえるように宿題をお渡しする
継続することで、身体の様子に気付けるようになり、ほぐれます。
気持ちの落ち着きや心の制御ができるようになります。
頑張り過ぎなくなり、セルフケアに意識が向くようになります。
家族への感謝の気持ちや健やかな想いが生まれます。
ヨガの場が安心感、共感の場となり、開放感や安心感をがん患者さんにもたらします。
がん当事者が体験したヨガの可能性(がんサバイバーでヨーガ療法士:北奥先生)
ヨーガ療法士養成講座受講中に、乳がんの告知を受けました。死への恐怖、怒り、悲しみ、苦悩、人生への問い、スピリチュアルペイン(魂の痛み)を体験しました。
感情が激しく揺れ動いていましたが、ヨガが救ってくれました。手術をしたり、放射線治療、ホルモン療法など、今も治療は継続中です。
リハビリの動きに呼吸を連動させたりしました。入院していた病室の人も「落ち着く」と言っていました。
五感を感じる瞑想から始まり、ヴェーダ瞑想(ヨガの伝統的な瞑想法)をしました。心観瞑想は大変でした。でも、命の有限性に気付け、自己存在を覚醒、歓喜に満たされました。
実はヨガは役に立たないと思っていたこともありました。今はがんにもヨガが役に立つということがわかります。
医療の現場にもヨガがいいとアプローチしていますが、なかなか難しいです。多くの人に広まったらいいと思っています。
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午前10時から夕方まで、さまざまな先生のお話を拝聴しました。
お話を伺っていて、涙が出ちゃうことも。
というのも、私も、がん患者さんお二人に、継続してヨガをお伝えする機会が過去にあったからです。
そのうちのお一人(末期がんの男性)の症例を、過去の学会で発表しました。
木村先生が『オプジーボの効果を高めるためにヨガがどう寄与するか(免疫力をアップさせる)』の調査が行われているというお話をされていまいたが、私が関わったこのがん患者さんも、治療が進むにつれて下がってくるはずの、免疫のT細胞の値があまり下がらなかったというのを実際に見ています。
そして心の状態にも改善がありました。
がんになってとても怒りっぽくなっていたのが、ヨガを継続し、瞑想という形でお話を伺ううちに、少しずつ変わっていきました。
エリザベス・キューブラ・ロスの『死の受容5段階』をたどっていただけかもしれませんが、初めはなかなかお話をして下さらなかったのが、時間の経過とともに、心の内を明かしてくれるようになり、穏やかな感じに変わっていったのがとても印象に残っています。
びっくりしたのが、私が学会発表のために作ったパワーポイントに入れた画像が、この日の木村先生のスライドの中に組み込まれていたこと。
もちろん、使用については了承していますが、ずいぶん昔のことだったので、この日、突然スクリーンに出てきて、一気に体温が上がりました(^_^;)
(研究総会終了後に他の先生から「うどうさんの画像、使われてたね(笑)」と言われました。)
『骨シンチグラフィー』という、がん細胞の骨転移の度合いを診る画像です。
全身に黒く示されていた骨転移したがん細胞が、呼吸法を続けることで2年後、とてもわかりやすい形で、骨本来の真っ白画像に戻った(=消えた)という画像です。
当時、その画像を診た担当医の先生も「何か特別なことをしましたか?」と驚いていたと聞いています。
この骨の画像、がん研有明病院や、ドイツでの学会でも木村先生の発表の中で使われたのだそうです。
お役に立てたのはとてもうれしいことです(^_^)
ヨガを教えていただいたことに対する恩返しになっているといいなぁと思います。
毎年、学会にはヨガによって病気がどう改善していったかという発表がたくさん出てきます。
この日の冒頭にも一般発表があって、
・腰椎すべり症
・ライフイベントのストレス
・発達障害のグレーゾーン
・腰痛
の患者さんに対するヨガの指導報告がありました。
そして『病気に対するヨガ』のアプローチ法も進化しています。
今回のお勉強はその進化と、医療の現場でどんな感じで実施されているか、がんに罹患された方の心の内、など、とても勉強になりました。
生きている限り、私も努力を続けます。
生きざまは死にざま、なのだそうです。
謙虚に誠実にヨガのお勉強を続けたいと思いました。
神社の池に優しい色合いのホテイアオイが咲いていました(^_^)