人間は一生のうち 逢うべき人に必ず逢える
しかも 一瞬早すぎず 一瞬遅すぎないときに
しかし 内に求める心なくば
眼前にその人ありといえども 縁は生じず
(森信三 / 哲学者・教育者)
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スポーツ選手へのメンタルトレーニングの第一人者、白石豊先生の講演を拝聴しました。
白石先生は、ここ何年かだと、エアレース(空のF1)で世界チャンピオンになった室屋選手、元阪神タイガースの下柳投手、元大リーガーの田中選手(現在は日ハム)、なつかしいところだと中畑清選手(口癖だった「絶好調!」は白石先生が暗示として教えたとか教えてないとか(笑))などにメンタルトレーニングの方法を教えた先生です。
いろいろな競技のオリンピックの代表選手の他、サッカー日本代表の岡田監督も白石先生のところに学びに来ていたのだそうです。
白石先生が教えるメンタルトレーニングは、まず『心身調律プログラム』の実践を続けないと、次の段階に進まないのだそうです。
講演の中で動画で見ましたが、まさに伝統的なヨガそのものでした。
『心身調律プログラム』は、身体と気と心を、それぞれチューンアップさせることができるのだそうです。
気のチューンアップのところで、ヨガの呼吸法が活用されているとのことでした。
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冒頭のことばの後、続けて白石先生はこんなお話をされました。
現役体操選手としての限界を感じ、他の人の勧めもあり、弱かった母校のコーチに就任します。
強豪校として復活したのもつかの間、白石先生は天狗になってしまい、選手にオーバーワークをさせ、ケガをさせてしまいます。
コーチとしての限界を感じた白石先生。
何かないかと求めて、禅に出会い、いろいろないきさつがあって、京都の佐保田鶴治先生のところでヨガを学び始めます。
しかし、すでに佐保田先生は高齢であり、出会いからほどなく、天寿を全うされました。
それから数年、佐保田先生の教えを守って、毎日、ヨガをしていたけど、
『これはヨガのほんの一部でしかない』
と白石先生は気付いたのだそうです。
白石先生は本格的なヨガを指導してくれる先生を探し、ある時、木村慧心(きむらけいしん)先生の本を本屋さんで目にし、鳥取在住の木村先生へ電話をかけます。
「いつ来ていただいてもいいのですけど、私はもうすぐヒマラヤへ行きます。」
と、電話の向こうで木村先生はおっしゃったのだそうです。
ちょうとそのころ(1989年ごろ)、日本ハムの白井一幸選手にメンタルコーチとして関わっていたので、電話から3か月後、白石先生は白井選手を伴って、ヒマラヤの修行から帰ってきた木村先生のもとを訪ねました。
そこで1週間、泊まり込みで伝統的なヨガ(ラージャ・ヨガ)を教わったそうです。
ポーズだけでなく、呼吸法、瞑想、哲学も。
ヨガは肉体だけでなく精神も変えていくことを実感したのだそうです。
最終日、木村先生は布団のレンタル料と食事代しか請求しなかったとのこと。
毎日つきっきりで、8時間くらいヨガを教わっていたのに、です。
白石先生は これぞ本物のヨガ!と思ったのだそうです。
「それまでの禅や心理学だけでは無理でしたが、ヨガという心理療法をメンタルトレーニングに取り入れたおかげで、うまくいくようになりました。」
と、講演の中で白石先生ははっきりおっしゃいました。
白石先生のお話を聞く機会は初めてではありませんでしたが、このお話は初耳でした。
そして、白石先生もまた、依頼をしてきた選手たちからコーチ料を受け取っていません。
(冗談で『みなさん選手として何億も稼いでいるのだからもらってもいいのでしょうけど(^_^)』とおっしゃっていました(笑))
それは、佐保田先生も、木村先生もそうしてくれたから、なんだそうです。
実は、木村先生も、ヒマラヤのお師匠さんに13年ほどお世話になったのだけど、お礼をお支払していないのだとか(笑)
木村先生が師事していたお師匠さんは、ヒマラヤでも高名なヨガ行者だったので、お金持ちからの寄付が後を絶たなかったのですが、個人としては一切受け取らず、財団を作り、そこに寄付してもらっていたのだそうです。
その寄付金のおかげで、木村先生のように外国からヨガを学びに来た人たちが、学び続けることができたのだそう。
そんなところまで伝統を引き継がなくても、と思ったりしますが、利他の心、なのでしょうか。
「伝統的ヨガと何かを組み合わせることで、相乗的に効果が上がる」
とサーカル先生もおっしゃっていましたが、白石先生の『メンタルトレーニングとヨガ』の組み合わせは、とてもいい結果を残しています。
白石先生が求める心があったから、ヨガに出会えた。
そして、ヨガがあったからこそ、もともと持っていた心理学のスキルと組み合わせて、いろいろな人のメンタル面を上手にサポートできるようになった。
冒頭のことばは、実感と感謝の気持ちとして白石先生の心の中にあることばなのだと思いました。